知っておきたい死後事務委任契約の基礎知識

人がなくなると、葬儀を始めとして、なくなるまでにかかった医療費や公共料金の支払い、年金受給の停止など様々な手続きをする必要がでてきます。

これらの事務手続きを死後の事務と呼び、通常はなくなった人の親族が行ないます。

しかし、なくなった人に身寄りがなかったり、あっても疎遠だったりした場合には、それらの手続きをする人がいません。

遺言状を利用すればよいのではないか、と考える方がいるかもしれません。しかし、死後の事務は遺言状に記載したとしても法律上の効力がなく、実際的ではないのです。

その点、死後の事務委任契約を結んでおくと、手続きをする人がいなくて困る、といったリスクを避けることができます。死後の事務委任契約とは、このような場合の手続きを行う人と内容について事前に決めておく契約だからです。

そこで、ここでは死後の事務委任契約についてくわしく解説します。

死後事務委任契約とは?

死後の事務委任契約とは、本人がなくなった後に、死亡届の提出、葬儀の手配、医療費や公共料金などの支払などといった手続きを、本人に代わって行うことを約した契約をいいます。

民法上の委任契約の一種です。

委任者が死亡した時には委任契約は終了すると規定されています。しかし、これは任意規定であって、特約によって変えることができます。

この点については、平成4年9月22日に出された最高裁判所の判決でも認められており、死後の事務委任契約は有効とされています。

また、民法651条1項には、委任者(子の場合は相続人)はいつでも委任契約を解除できる、との規定があります。この点については、平成21年12月の高裁判決でその内容が不明確だったり、実現困難であったり、さらには不合理であったりするようなものではない場合には、この規定による契約の解除は許さない、としています。すなわち、相続人が死後の事務委任契約に不満をもったとしても内容によっては契約の解除はできない、としているのです。

ただし、これらの内容は契約上当然に適用されるものではありません。そのため、死後の事務委任契約書によって明確にしておくことが必要となります。

しかしながら、相続人との間で無用のトラブルはできるだけ避けたいもの。そのため、相続人がいる場合には死後事務委任契約の扱いは慎重にする必要があるといえるでしょう。

死後事務委任契約がない場合にはどうなる?

死後の事務委任契約がなく、なくなった本人に代わって葬儀などの手配をする人がいない場合の手続きは次の通りです。

財産に関する手続き
  • 本人の財産が相続財産法人という名前の法人となり、家庭裁判所の管理下に入ります。
  • 家庭裁判所は、治療費を受け取れない病院などといった利害関係人の請求によって、相続財産管理人を選任。相続人がいれば申し出るように官報で公告します。広告期間は2ヵ月です。
  • 公告期間を過ぎても相続人が現れない場合、家庭裁判所は本人に対して債権をもっている者は申し出るように官報で公告をします。広告期間は2ヵ月以上です。この期間内に病院や介護施設などは治療費や利用料などの請求をすることになります。家庭裁判所は公告期間終了後に、請求された債務を本人の財産の中から支払うこととなります。
  • 上記2回の公告期間を過ぎても相続人が現れない場合、家庭裁判所は相続財産の管理人、検察官の請求により、6ヵ月以上の期間を定めて、相続人は申し出るように公告します。
  • この期間内に相続人が現れない場合には、相続人不存在が確定。財産は国庫に帰属することとなります。

なお、この期間を過ぎると、債権者は本人の財産から債務を取り立てることができなくなります。また、期間内に特別縁故者が現れた場合には、その人に財産の全部もしくは一部が与えられることとなります。

以上は財産の処分についての説明でしたが、それ以外に考えられることとして、葬儀や死後パソコンやネット上に残るデジタル遺品の処理といった問題があります。

葬儀に関する手続き

葬儀を主催する人がいない場合、市町村が遺体を引き取り埋葬または火葬をすることになっています。あくまでも火葬して埋葬するだけですから、個別にお墓をたててもらうことはできません。

また、遺言状で葬儀の方法を記載してあったとしても、遺言執行者を決めていない場合には、その内容は実現されません。

死後事務委任契約でできること

死後事務委任契約は、法律で禁じられている以外のことであれば、委任する事務の内容を自由に決めることができます。

たとえば、次のものがあります。

  • 医療費や介護施設利用料などの支払
  • 相続人や関係者への連絡
  • 葬儀、埋葬の手配
  • 墓石の建立、永代供養、菩提寺の選定
  • 賃貸借物件の明け渡し
  • 死亡届、年金受給の停止、公共料金、税金の支払いなどの事務
  • デジタル遺品の整理、消去

死後事務委任契約を検討するのが良い人

死後事務委任契約は本来、親族などの相続人が行なうべき手続きを、相続人に代わって行うことを目的とした契約です。

そのため、相続人のいない人やいたとしても、まったくの没交渉で連絡先もわからない、という人は死後事務委任契約を検討するのがよいでしょう。

葬儀の問題もありますし、特にデジタル遺品については、きちんと処理しておかないと、自分ばかりか他人へも迷惑をかける可能性があるからです。

遺言状との関係

遺言状が強制力をもつのは財産の処分方法と相続人の身分関係の確定です。

財産の処分方法については、相続分の指定、分割方法の指定、財産の相続先の指定があります。

また、相続人の身分関係については、子どもの認知、相続人の廃除があります。

しかし、死後の事務については強制力がありません。そのため、遺言状に記載されてあったとしても、それが実行されるかどうかはわからないのです。たとえ、遺言執行者がいたとしても、法的な強制力がなければ遺言内容の実行は難しいでしょう。

そこで、死後の事務委任契約を結ぶことでこの問題をクリアすることができます。

もっともよい方法は遺言執行者との間で、死後の事務委任契約を結ぶことです。そうすれば、遺言内容の実行が実質的に担保されるからです。

任意後見契約との関係

任意後見契約は、判断能力が低下した際に、任意後見人が本人の財産管理と身上監護を行なうものです。

しかし、この契約の有効期間は本人が生きている間だけに限られるため、死後に行わなければならない事務については効力がありません。

そのため、任意後見契約を結ぶ際には死後の事務委任契約も一緒に結んでおくことも検討に値します。

これに先述した遺言状の作成を含めた手続きをしてしまえば、いわゆる「老い」への備えとしては問題なしといえるのではないでしょうか。

死後事務委任契約は公正証書で作成

死後の事務委任契約は公正証書によって作成します。契約なので私人間で作成した契約書でも有効ではあるのですが、証拠力という点からいえば、公正証書に勝るものはありません。また、私人間で作成した場合、法律用語の使い方を間違える可能性があり、後でトラブルになる可能性もあります。しかし、公正証書であれば、法律のプロである公証人が事前に内容のチェックを行なうので安心です。専門家が作成した場合には、法律のプロがダブルでチェックをすることとなるのでより安心できる契約書を作成することができます。

まとめ

死後の事務委任契約は、基本的に相続人がいない場合に検討するべきものです。

それに遺言状、任意後見契約を組み合わせることで、たとえ、独居であっても「老いる」ことによるリスクはかなり低減させることができるでしょう。

当事務所では、死後の事務委任契約書作成をさせていただいています。興味のある方はぜひご相談ください。

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